安田章大、の生き様――舞台「俺節」

※舞台「俺節」のネタバレがあります。

 

 

私は安田くんのことを、「むちゃくちゃすごい才能があるのに生きるのが不器用な人」だと思っていた。

真面目で、優しくて、歌もダンスも作詞作曲もものすごい才を持っていて、演技だってできるし、本当にすごい人なのにどこか不器用というか、安田くんのすごさがずーっとうまく世間に伝わってないと思っていた。でもその不器用ささえも愛しくて、私は安田くんのファンになった。

 

安田くんの主演舞台「俺節」を観劇してきた。なんだかんだで、安田くんを舞台で見るのは今回が初めて。正直現場は常に自ユニだけでも手一杯な状態だけれど、エイタメに行って安田くんかっこいいよおおおおお(泣)なテンションの時にそのノリでうっかり行くことを決意した。あの時のエイタメ後のハイテンションの私に心から感謝したい。

 

安田くん演じるコージは「世の中をとっくり返せる」自分の唯一の武器=歌と、おばあちゃんがくれた背広だけを持って、演歌歌手になるべく青森から上京してきた青年である。

歌がキーワードになる舞台って、すごく大変だと思う。歌がストーリーを動かすから、その歌声に説得力がなければならない。コインロッカー・ベイビーズで橋本くんが演じたハシもそうだったけれど。今回の安田くん演じるコージの歌声は、「世の中をとっくり返す」力を秘めたものだ。並大抵の歌では説得力なんてもたせられない。

 

私は安田くんの歌声が大好きだ。安田くんが演歌歌手の役、安田くんの歌声が生かせる役だ!とわくわくしていた。そうして迎えた観劇。…安田くんの歌声は、私の想像を遥かに超えてきた。

安田くんが最初に本格的に歌うのは、ヒロインのテレサを助けるためにヤクザに向かって自分の歌をぶつけるシーン。

上手い、のは、知っていたつもりだった。

技術、声量が圧倒的なものであったこともさることながら、何よりも、すごかったのだ。歌に込められた魂が。自分の体さえも焼き尽くすような、焼き尽くしても構わないといったくらいの、自分の中の全部を振り絞るような。上手くなんて生きられない、不器用にしか生きられないコージの歌。

序盤なんですよ、これ。この舞台って長くって、休憩20分含めて3時間半ある。しかも東京大阪合わせて一か月間の公演、一日二回公演の日も多い。千秋楽でもないただの中日で、まだ序盤も序盤で、こんなに、こんなに歌う?こんなに全力を出す?勿論舞台はどの日も同じ値段を払っている以上同じクオリティは担保されているべきだと思うけど、やっぱり、人間だし、体力的に大変だし、しかもこれだけ歌う作品で全部に120%全力をかけるって生半可なことじゃないと思うんですよ。

その後も、コージは何度も歌う。何度も何度も全力で歌う。コージの歌を聴いている時、気付いたら涙がこみ上げてきた。びっくりした。歌声だけで涙が出てくる経験は初めてのことだった。

本編でコージが最後に歌う歌、「俺節」。コージが立った、アイドルグループの前座での野外ステージには雨が降り始める。それでもコージは歌う。雨が強くなってきたって構わない。服もギターもびしょ濡れになってもコージは歌った。「魂の歌声だった」、というほかに表現方法が思いつかない。その光景と歌声に、ただ客席にいるだけなのに、呼吸すらも忘れてしまいそうになった。

 

雨の野外ステージから一夜明けて、コージは相棒であるオキナワと出会った街、みれん横丁に現れる。みれん横丁の住人と同じように、昨日のことが新聞に載っていないことに若干不服そうにしながら。あたたかいみれん横丁の空気。物語はそこで終わって、カーテンコールに入る。一旦ハケる前に安田くんの表情がふわりと崩れる。いつもの優しい安田くんの笑顔。その表情を見た瞬間、なんだかぶわっと、また泣けてしまった。

あんなにすごかったのに、とんでもないパワーで歌って、体当たりでコージを3時間半演じきったのに、安田くんはいつもみたいになんでもないように楽しそうにふにゃりと笑う。安田くんってとんでもなくすごい、どうしてこんなにすごいんだ、って、安田章大という人の底知れない凄さにびっくりして、でも安田くんってこういう人なんだよって安田くんのこういうところが大好きなんだよって、泣けた。キャストさんみんなが横に並んで楽しそうに笑っているその真ん中に安田くんがいる光景があまりにも幸福すぎた。

 

安田くんとコージって似てるなぁって、帰り道に俺節のことを思い返しながら考えた。すごい才があるのに、不器用。真面目でまっすぐで優しすぎて世の中を渡っていくのが上手じゃない。本当はすごいのに、うまく外に伝わらない。そんなところもひっくるめて愛おしい、けれど。

安田くんは頂いた仕事に対してものすごく真摯で、自分の全身全霊を傾ける。加減も計算もない。常に全てをぶつけてくる。痛いほどにまっすぐで不器用だからこそ強い安田章大という人の生き様は、コージの生き様と重なった。

安田くんが魂を吹き込んだ「舞台版・コージ」の姿に、私は安田くんのまっすぐで不器用で愛おしい生き様を…というか、そんな生き様を好きになったファンとしての気持ちを全部肯定されたようにすら思った。コージは安田くんだから演じられた、いや、安田くんじゃないとコージは演じられなかったと言わせてほしい。

 

安田くんが舞台の真ん中に立って、客席を嬉しそうに楽しそうに見て、緞帳が下がり始めたらしゃがんで誰よりもギリギリまで手を振ってくれる姿に、この人は本当にすごい人だ、と改めて思った。

 

今はもう自担ではないけれど、安田くんは私にとってはずっと宇宙一すごい人。今までもこれは変わらなかったし多分これからも変わらない。

コージを演じる安田くんが観られてよかった。安田くんのことを好きになってよかった。安田くんのことがすごく好きです。

ありがとう、お疲れさま。千秋楽まで残り約半月。残りの公演も安田座長らしい、あたたかくて素敵なものになりますように。