観客たちは夜の劇場で小さな夢を見る――舞台「サクラパパオー」感想

*内容の核心部分のネタバレはありません。

 

夜のどこかにある、夢の競馬場で、

小さな奇跡が起きるワンナイト・コメディ。

何かを信じ、何かに賭けなければ気がすまない、

人間という不思議な生き物たちの物語

――「サクラパパオー」公式サイトより引用

 

A.B.C-Z塚田僚一くん初単独主演舞台「サクラパパオー」を観劇してきました。

すっっっごい楽しかった!2時間弱ずーーっと楽しくて、最後はこっちまで少し手に汗握って。終わった後は心がほっこりして帰り道の足取りは軽くて、自然と顔が笑顔になっちゃう、そんな舞台でした。

 

競馬場が舞台、と聞くと無骨なおじさんたちの場所みたいなイメージがあるかもしれないけれど、本作のセットはすごくファンタジック。遊園地のよう。それはセットだけではなくて、登場人物の衣装のカラフルさであったり*1実況の杉本(永島さん)の衣装や立ち居振る舞いであったりのメルヘンさ、テーマパーク感、がこの作品全体をファンタジーという膜でゆるやかに包んでいる。

 

登場人物は全員すごく人間らしくて、歯に衣着せぬ言い方をするならダメな人たちで、「まったくしょうがねぇな~!」「こいつらダメだな~!!」って思う。作中でも田原たちが的場に「バカ」と言うシーンがあるのだけど、本当バカ。でも愛すべきバカ者たち。主に男性陣。笑 でもどうしてか、そんな彼ら一人一人をすごく好きになってしまう。

彼らがダメだと分かっていても競馬やヘレンに惹かれてしまうように、彼女らがそんなダメな男たちを「バカだなぁ」なんて言いながら結局付き合ってしまうように、私たちは呆れながらも一緒に笑って祈って彼ら彼女らを好きになる。

 

永島さんas杉本(実況アナウンサー)のテーマパークのようなポップな衣装と口上が一番最初に私たちをサクラパパオーというファンタジーの世界に誘ってくれる。私は競馬は全く分からないけれど、杉本の迫力ある実況を聞いているだけでそのレースが脳裏に鮮明に浮かんでくる。物語の中のレースを聞いているだけと分かっていても手に汗握って心の中で馬を応援してしまう。実は実況だけではなくて時々競馬場のお掃除をしていたりと、舞台上でスポットが当たっていないところでも働いているのがかわいらしい。笑 これまでのサクラパパオーでは実況は声だけの出演だったと聞いたけれど、声だけじゃないからこその楽しさとかわいらしさがあった。

市川さんas横山(会社員)の、買う馬券を一つに絞り切れなくてもだもだしている様子に「まったくもうこいつは~!笑」と思うけれどそんな心の弱さに共感もする。そんな弱さから予想屋さんに付け込まれてしまうのも、信じてしまうのも、純粋でなんだかついついかわいらしく思えてしまう。

木村さんas柴田(予想屋)は、言葉巧みにカモを見つけてはおだてて乗せる様に悪いなぁ~と思うけれど、後半の「ある馬」に懸ける想いに、この人すごくその馬が好きなんだなぁやっぱり競馬大好きなんだなぁと思ってしまってどうにも憎めないキャラクター。「俺は馬券を買う勇気がないから予想屋をやってる」と横山に弱みを見せたシーンは、横山を信用させるための言葉なのか本心から零れた自虐なのか。

広岡さんas幸子(未亡人)は、競馬好きなちょっとスレたおばちゃんかと思いきや競馬場に通う理由にそういうことかぁ…と。意外としっかりしているところ、競馬初心者の今日子ちゃんを放っておけず世話を焼いてしまう姿がすごく好き。色々あったけど、だからこそ強い女性。幸子さん、親戚にいてほしい。

伊藤さんas井崎(商店街の店主)、競馬に女性にとつい欲にふらっといってしまう姿が田原に似ていて、なんだかんだ気が合った田原とのおバカなやりとりがすごく楽しい。田原とのおバカコンビ(そして的場も加えたおバカトリオ)かわいいよ~!すぐ調子に乗るし、懲りないし、ほんとダメなんだけどやっぱり憎めない。

片桐さんas的場(外務省職員)、一番まともな人かと思いきや一番マジでダメだったのがこの人~~!(ダメさの規模的に)競馬初心者だから賭け方の危うさにハラハラするし、そんな危うさから田原&井崎や予想屋さんに振り回されるんだけど、疑わずに信じちゃう人の好さとおバカさがかわいくて好きになってしまう。おバカだけど腐っても外務省職員、時々エリート感が出る…けどよく考えたらこの人一番ダメだよな…っていうギャップがもう面白い。かわいい。田原井崎的場の3人でズッコケ3人組と呼びたい。

中島さんasヘレン(謎の女)、役柄的にちょっと間違えると嫌な女になりそうなところを、嫌味がまったくなく可愛らしく女性でもつい惹かれてしまう魅力的な女性となっているところがすごい!!!ヘレンさん好きーー!!!「こんな素敵な女性だったらついふらっといってしまうよな…」と男女問わず誰しもが納得してしまう。とにかくキレイでびっくりするほど魅力的、そこにいるだけで華がすごくて流石は宝塚出身…。ヘレンさんのような女性が「魅力」と「コメディ」両方損なわずにこの物語に組み込まれているのがすごいなぁと思った。ヘレンさんが田原を呼ぶ時の「としくん♡」呼びが好きです。

黒川さんas今日子(OL)、こんなにも可愛いのに男がボケばっかりだから一番強めのツッコミ担当になっているのが…!サクラパパオーというやつは…!今日子ちゃんはサクラパパオー界の佐藤勝利*2。叫ぶように言う台詞が多いので、千秋楽まで喉大事にしてくださいね…!赤いお衣装がよく似合っていて可愛い、作品の世界観も相まってファンタジーみたい。なのに怒る時は地の底からみたいな低い声で怒るギャップ。田原のダメなところは競馬場でどんどんバレていくんだけど、しっかりしてて怒ると怖くて、でもせっかく来たんだから楽しもうというポジティブさもあって、こういう今日子ちゃんだからこそ今までも本当はダメな田原と付き合って来られたんだろうなぁと思う。きっとこれからもなんだかんだ言いながらもダメで憎めない田原を引っ張って行ってくれるでしょう。今日子ちゃん、田原をよろしくね!

 

そして、塚田くんas田原(会社員)。ダメで、おバカで、でも「バカだなぁ」なんて呆れながらもかわいらしくて憎めない、ついついみんな好きになってしまうキャラクター。サクラパパオーはそんなキャラクターが揃っているけれど、中でも田原はその筆頭だと思う。演出の中屋敷さんは、田原という役は(これまで演じてきた)福本さんにあてて書かれたんだろうなということを仰っていたんですが、私は塚田くん版田原を見て「むしろこれは塚田くんのあて書きなんじゃないか?」と思ったほど塚田くんに合っていた。

小劇場でスタートしたサクラパパオーは塚田くんに引き継がれて大劇場に辿りついたのだけど、塚田くんの身体能力と持ち前の明るさで田原は縦横無尽にセットを駆け回り、跳ねて飛んで回って、大きなアクションで舞台を明るく照らす。「塚田くんだから大劇場なんだ」って、そこですごく納得した。その身体能力と滲み出る明るさ、人の良さは塚田くんが持っているものなんだけれど、舞台上にいるのは間違いなく田原で…塚田くんが持っている魅力が田原という役として表出していて…。実際普通の会社員は突然バク転なんてできないと思う、でもそれが田原のお調子者さの表現として違和感なく成立している。ファンタジーというこの作品の世界観もあると思います。*3

元々塚田くんと田原は似たところがあると思うけれど、演出や演技でそれがより強くなっていて。これが「塚田くん版の田原」なんだと思いました。なんていうか、間違いなく、ものすごい「ハマり役」です。そして塚田くん版田原を塚田くんと一緒につくってくれた演出の中屋敷さん、本当にありがとうございます。

塚田くんのファンとしては、婚約者がいるという役が新鮮でした!女性とお付き合いしている塚田くんの役…!田原と今日子ちゃん本当にかわいくて大好きです。

 

舞台を観て、帰宅してパンフレット*4を読んでいて、塚田くんと中屋敷さんの対談のある一文に「なるほど」と思いました。

塚田「コメディだから面白いことをやろうというより、登場人物のキャラクターをそれぞれが掘り下げているという印象があります。」

中屋敷「コメディだからウケなきゃダメだとか、笑いを取らなきゃ、というのは違うなと思うんです。そもそも演劇として、お客様にどういうものを見せるか、笑いの先に何を見せるか、ということを考えてつくらないと作品が持つ本当の面白さが出ないと思うんです。」

こんな思いで作られているからこそ、キャラクターの一人一人が愛おしく、楽しく、ほっこりとした気持ちで劇場を出られるような素敵な作品ができたんだなぁと思いました。

中屋敷さんはこうも仰っていました。

中屋敷「塚田くんが稽古で生命力を爆発させることによって、ほかの俳優さんたちも負けじと生命力を出しているのが分かります。(中略)僕としては、そういう塚田くんのスケールを閉じ込めないようにしたい。」

中屋敷さんは役者を見るのが好きだから演出家をやっていると言います。中屋敷さんの作品に触れるのは今回が初めてなんですが、中屋敷さんが俳優を愛するからこそ一人一人の魅力がこんなにも輝くし、座長である塚田くんの魅力をわかって塚田くんのもつ力を作品全体に生かそうとして下さったんだなぁと思います。

 

塚田くんの初外部舞台出演作品が、同事務所の先輩も一緒にいて役者の先輩方にたくさん可愛がられて、すごく楽しい作品だったイットランズでよかったと思っているし、初主演作はダブル主演の相手が違う畑(俳優)の方でお互いに刺激し合える・年下で慕ってくれる優しい渡部秀くんでよかった、塚田くんを見守って寄り添って演出して下さるノゾエさんとのボク穴でよかったって心から思っている。

そして塚田くんの初単独主演作品が、サクラパパオーでよかったって思いました。塚田くんが真ん中にいることで塚田くんのパワーが座組全体に伝播するような楽しい作品、「ハマり役」である田原という役、優しく見守って下さる共演者の方々、塚田くんの良さを引き出そうとして下さる演出の中屋敷さん。そんなサクラパパオーで本っっ当によかった!!!!

 

塚田くんのファンや他の演者さんのファンは勿論、そうでなくても、競馬を知っていても知らなくても、何の予習もしてこなくても、「ちょっと予定空いたから楽しいもの見たいなぁ」それだけでいいんです。本当に気軽に足を運んでみて欲しい。終わった後、きっと来た時より少しだけ幸せな気持ちで帰れると思う。

埼玉公演は4/30(日)まで、東京公演は5/10(水)~5/14(日)。ほか宮城・愛知・大阪でも公演があります。

チケットはここから買えます!!まだ全公演あるよ!!!!!

・チケットぴあ

・ローチケ

・e+

埼玉公演はもうほぼ当日引換券か当日券からになるのかな?

当日引換券はチケット買ってコンビニとかで発券した引換券を開演1時間前から大ホールの入口のところに持って行くとチケットに引き換えてくれます。当日券も同じ大ホール入口で開演1時間前から買えるよ。どこも大きい劇場での公演になるので、基本的に問題なく当日券は買えるかと思ってます。

ちなみに私は当日引換券で入ったら前列ドセンというFCでとったチケットよりもいい席がきてしまったので当日引換券侮れない……………

 

最後にもう一か所だけパンフレットでの中屋敷さんの言葉を引用させてください。

 大した裏表のない、自らの平凡な人生を楽しくしたい。大逆転なんて大袈裟なことじゃなく、ほんのちょっとでも面白く生きたい。そんな切実な祈り、小さな願いを抱えながら馬券を買うのだ。(中略)劇中人物たちは、これが夢だと分かっていながら、いや、十分に分かった上で夢を見るのである。

賭け事ではないから厳密に指していることは違うけれど、たぶん私たちがコンサートのチケットや舞台のチケットを買うのも「夢を見たいから」なんじゃないかと思う。なんてことない人生の中で、一枚数時間の夢を見たくて私たちは劇場に通う。サクラパパオーはそんな夢を見させてくれる舞台だと思う。

だから私はまた、サクラパパオーを観るために、登場人物たちと一緒に小さな夢を見るために劇場に足を運ぶ。そして沢山の人がそうやってサクラパパオーという夢を見て、人生をほんの少しだけ鮮やかに彩るような、そんな経験をしてほしい、とそんなことを思うのです。

 

 

 

*1:これポスターに載っていた演者紹介イラストのヘルメットと同じ色を身につけてるんです…メンバーカラー制度…

*2:Sexy Zoneは勝利くん以外ボケと天然しかいないので、かの顔面人間国宝様が唯一のツッコミを担っている。頑張ってほしい。

*3:過去の外部舞台2作もそうでしたが。演出家さんは塚田くんを見てるとアクロバティックに動かしたくなるのかな…そう思って頂けること、塚田くんだからできる表現の武器があるって嬉しいことだ

*4:インタビューも素敵だし稽古場写真も競馬場に行ったレポもあって最高なのでみんな買ってね…